不動産業界には千三(センミツ)という言葉が存在する。
良い物件や良い条件の取引は1,000個あるうちの3つしかないという意味だ。
良い不動産の取引はそれだけ確率が低いということになるが、少しでも効果を上げるには集客活動を戦略的に行っていくことが重要となる。
この記事では、経営戦略の中から「不動産集客において特に役立つ戦略」について解説する。
それぞれの戦略をベースとした具体例も紹介していこう。
不動産集客に使える3つの戦略
最初に不動産集客で役に立つ、3つの戦略の基礎知識について解説する。
1.ランチェスター戦略
ランチェスター戦略とは、元々イギリス人の研究者であったランチェスター氏が考案した軍事戦略のことである。
簡単にいうと、「接近戦であれば少ない軍事力でも勝つことができる」といった考え方が基本であり、戦闘機や戦車等の兵力数が少ない状況で、「どうやったら勝てるか」ということを目的に生み出された方法論の一つである。
ランチェスター戦略は、戦後、特に日本においてビジネス戦略として発展してきた。
日本は中小企業の多い国であるが、中小企業は「ヒト・モノ・カネ」の経営資源が限られている。
少ない経営資源でビジネス界を勝ち抜いていく方法論として、ランチェスター戦略が定着していったという背景がある。ランチェスター戦略は「少数で勝つなら接近戦」という法則であり、それをビジネスに置き換えると、
「商圏を絞り込む」
「サービスを絞り込む」
「専門性を高める」等の戦略に変換される。
日本全国、あらゆる商材は無理だとしても、商圏を狭くしてNo.1になれる分野があるなら、そこに全ての経営資源を投入して闘う方法がランチェスター戦略である。
例えば、「当社は横浜市港北区におけるマンション買取専門の会社です!」というのは、地域を横浜市港北区に絞り、サービスを買取に絞り、対象をマンションに絞った戦略だ。
まさに横浜市港北区でマンションの買取を検討している人は、「専門で行っている会社は他の会社より高く買ってくれるかも」という印象を抱くだろう。
このように条件を絞ったことで、条件がフィットする顧客には深く刺さり、集客力が高まる効果がある。
展開するビジネスの対象を絞ることで、軍事的にいう「接近戦の状態」になり、その範囲の中では大手よりも優位に商売を繰り広げることができるようになるのだ。
2.差別化戦略
差別化戦略とは、他社には提供できない商品やサービスを付加することで価値を上げ、集客しやすくする戦略である。
例えば、大きな倉庫を自社で保有している不動産会社があったとする。
マイホームの売主には、販売期間中、内覧で家を綺麗に見せるため荷物を一時的にどこかに預けたいというニーズがある。
倉庫を持っている不動産会社なら倉庫を使って不動産の売却時に「無料の荷物一時預りサービス」を展開できる。
荷物一時預かりサービスを付けることにより他社の仲介と差別化ができ、売主を集客しやすくなる。
差別化でポイントとなるのは、他社が真似しにくいサービスを行う点だ。経営理論においては、他社が簡単に真似しにくい差別化のことを「模倣困難性」と呼ぶ。
模倣困難性が高いほど、他社が簡単には真似しにくくなるため、強力な差別化となる。
大きな倉庫を保有するということは、中小の不動産会社にとってはハードルが高い。
そのため、元々大きな土地と倉庫を持っているような不動産会社は、倉庫を持っていることは模倣困難性が高い強みとなる。
差別化を行う際は、自社の強みを再認識し、強みを生かして真似されにくいサービスで差を付けることがポイントだ。
3.プッシュ戦略
集客方法には、大きく分けてプル戦略とプッシュ戦略の2種類がある。
プル戦略とは広告等を展開し、顧客からの来店を促す集客方法である。
それに対して、プッシュ戦略とは、自ら顧客に直接接触していく集客方法であり、営業と同じニュアンスだと思ってもらって構わない。
地味だとはいえ不動産業界においては、やはり訪問営業型のプッシュ戦略の方が効果が高い場合がある。
プッシュ戦略は、例えば駐車場になっている土地の謄本を調べ、所有者のところに直接売却や土地活用を打診するローラー営業のスタイルが該当する。
プッシュ戦略の精度を上げるには、ターゲットを売却や土地活用のニーズがありそうな物件に、絞り込んでから行動に移すことがコツである。
戦略を活かした具体例
1.土地活用提案から地主を発掘する(ランチェスター×プッシュ)
更地の所有者に対して、土地活用提案から地主を発掘するという方法もある。
土地活用提案は、ハウスメーカーやテナントともコネクションがないとできないため、簡単にはできない差別化戦略といえる。
更地の所有者に対して、いきなり「売却しませんか?」というよりは、「借りたいと言っている人がいます」という提案をした方が地主には聞き入れられやすい。
ランチェスター戦略を実践し、店舗の近くの地主にターゲットを絞れば、何度も通うというプッシュ戦略も実行しやすくなる。
良い場所に土地を持っている地主は他にも土地を持っていることが多いので、1回土地活用に成功すれば、他の物件の売却やアパートの管理等も任されるといった展開も期待できるであろう。
2.アパートの空室対策から地主を発掘する(差別化)
アパートの空室対策も地主が聞き入れやすい提案であるため、実行する価値がある。
賃貸仲介から地主に入り込んでいけば、そのうち管理や売却も任されるようになる。
賃貸仲介も強化しておくと、その会社の強みとなっていく。
強みは会社の差別化戦略になるため、賃貸仲介を切口として売買仲介を獲得していくスタイルは、他社には簡単には真似しにくい集客方法となっていく。
3.集中的なチラシ投函で売主を発掘する(ランチェスター)
チラシで集客を行う場合には、ランチェスター戦略で臨むのが有効である。
チラシは、撒く回数を増やした方が効果は上がるため、広範囲に1回だけ撒くよりも、狭い範囲に何回も撒いた方が集客効果は高まる。
特に、近隣にマンションがある場合には、「売り物件を求む!」のチラシを特定のマンションに何度も撒くと、そのうちマンション売却の問合せを取れるようになってくる。
広告費という経営資源は限られているため、戦略的に狭い範囲で何回も撒く手法を取るべきだろう。
4.小規模収益物件に特化して投資家を発掘する(ランチェスター)
ランチェスター戦略の例として、小規模収益物件に特化して投資家を発掘するという方法もある。
価格が1,000万円未満の区分マンションのような投資物件の場合、1件当たりの仲介手数料が安いため、大手の不動産会社はあまりやりたがらない。
一方で、小規模物件は投資額が小さいことからサラリーマン投資家等に人気があり、需要は高い。
ビジネスにおいて、このように「ニーズはあるけれども儲からない」という戦場は中小企業が比較的闘いやすいといえる。
一見すると儲かるように見えない市場には大手の不動産会社は入り込んでこないため、強敵も少ないからだ。
儲からないと思われる分野であっても、その分野に特化して効率的な仕事を行うと、利益を上げられるようになってくる。
ランチェスター戦略は、どのような分野に絞り込んで闘うかという部分が大切となる。
自社の強みを生かし、まずは狭い範囲で接近戦を繰り広げることが集客効果を上げる秘訣となるのだ。
まとめ
以上、不動産集客において特に役立つ戦略について解説してきた。
不動産業界においては、主に「ランチェスター戦略」、「差別化戦略」、「プッシュ戦略」の3つの戦略が有効である。
各戦略を活かした具体例としては、
- 土地活用提案から地主を発掘する(ランチェスター×プッシュ)
- アパートの空室対策から地主を発掘する(差別化)
- 集中的なチラシ投函で売主を発掘する(ランチェスター)
- 小規模収益物件に特化して投資家を発掘する(ランチェスター)
等がある。
いずれにしても、全てをやろうとするのではなく、やることを絞って専門性を高めることがポイントだ。
戦略的な行動は個人でも会社でも使えることなので、今後の不動産集客の参考にしていただけると幸いである。